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翻訳コラム01金額と品質のバランス


最近、仕事内外でいろいろな方とお話をしていると、「大手の翻訳会社に依頼してかなりの金額を支払ったにも関わらず、期待したほどの品質が得られなかった」という声を聞くことがたまにあります。「これはなぜなのか」という問いについては期待した翻訳レベルによっても異なりますし単純な回答はありませんが、一般的な傾向のようなものはあると思いますので、ここではその傾向について説明したいと思います。

その前に「大手翻訳会社」の定義についてですが、基本的に一部の例外を除いて翻訳業界にいわゆる「大企業」はありません。従業員100人クラス、年商10億単位の会社ですらごく一握りですから、翻訳業界で大手といってもせいぜい従業員20人程度の会社です。ただし、基本的に翻訳作業は外注で行う場合が多いので、20人程度の規模であれば数百、数千、場合によっては数万人の翻訳者リストを持っている場合が多いため、キャパシティはかなりのものになります。

ということで本題に入りますが、結論から言えば「翻訳の質は十中八九、翻訳者の力量によって決まる」ということになるでしょうか。以下、少し長いですが説明します。

上述のように大手翻訳会社の翻訳者リストはかなり膨大なものです。これによって大量の案件、至急の案件、ニッチな分野の案件にも対応できる仕組みになっているわけですが、かといってすべての翻訳者がA、B、CでいってAクラスの翻訳者ではありません。というよりも、翻訳業界に大きな功績を残された故・山岡洋一氏が「産業翻訳のプロだって100人いるかどうか」とおっしゃっていたように、業界全体の問題として、Aクラスの翻訳者というのは数のうえでも一握りしかいないのです。「100人」は極端としても、国際化により高まり続ける翻訳ニーズに対して優秀な産業翻訳者の需給バランスがかなり逼迫しているのは事実でしょう。 しかも、翻訳エージェントの国際間競争も激しさを増しており、昨今では不況のあおりもあいまって翻訳単価は下落傾向です。そのようななかで多くのスタッフを雇用するために日夜膨大な案件を処理している大手翻訳会社がどうしているかというと、必然的に比較的単価が安く供給量の多いBクラス、もっといえばCクラスの翻訳者を使う、または中小・零細の翻訳会社に外注することが多くなっているのです。

そこで肝になるのが元請け翻訳会社側での品質管理(QA)です。

では、Bクラス、Cクラスの品質レベルをQAによって引き上げるにはどうすればよいでしょうか。理論的には、Aクラスのチェッカーを使ってより高い品質のものを出そうということになります。しかし、翻訳家・井口耕二氏の論を借用するならば、よしんばAクラスのチェッカーが見たとして、CのものがBに、BのものがB+になったとしてもAになることは絶対にありません。当たり前のことですが、Aクラスのものにしようと思えばチェッカーが「最初から自分でやる」のとほとんど変わらない作業になるからです。しかも、Aクラスのチェッカー自体が少ないですから、結局のところはB・Cクラスの翻訳をBクラスのチェッカーが見るということになっています。

したがって、翻訳品質のほとんどの部分は一次翻訳者の力量にかかってくるのであり、しかも大手に依頼したからといってその一次翻訳者の力量が優れているとは限らない、むしろ大手になるほど大量・短納期案件に対応するためにQA体制によってシステマティックに一次翻訳者の力量不足を補おうとする傾向が強いとも言えます(もちろんすべてではない)。

結果、極端に粗悪な翻訳は出てこないけれども、Aクラス、いわんやA+クラスの翻訳は出てきにくいという構造になっているのではないでしょうか。

もちろん、会社によっては独自の品質管理ツールやコミュニケーションプラットフォームを開発したりして努力されているところもあります。また大手ほど品質は安定しますから、B-~B+の品質は堅いでしょう。引き出しも多くキャパも大きいので対応も柔軟なはずですし、大手の翻訳会社に依頼されるメリットも多くあります。ただ、生産(翻訳)しないスタッフが多い分だけオフィスも人件費も必要ということで、相対的に金額が高くなるため「品質面で費用対効果が悪い」と感じられるケースや、「大手なのだからAクラスが出てくるだろう」と期待していたソースクライアントの期待が裏切られるケースがあるのが冒頭の声につながっているのでしょう。

また、質の高い翻訳には手間がかかりますから、「それほど文句の言われない程度のレベルで量を売る」ほうが利益が上がりやすいという現実もあります。これについてはクライアント含めた業界の構造的な問題もありますので、また改めてお話したいと思います。

ともあれ、結局のところAクラス以上の品質を求めるのであれば、大手翻訳会社に相応の金額を積んでAクラス翻訳者を指定するか、Aクラス翻訳者ないし規模を拡張せず品質にこだわりをもっている中小・零細のエージェントを見つけるしかないのではないでしょうか。手っ取り早いのは前者ですが、理想的なのは後者でしょう。

ただし、中小、零細の翻訳会社については個人事業の延長のようなところからかなり組織立ったところまで様々で、数も数千社はくだらないと言われています。品質レベルでも、A+もあれば機械翻訳に毛が生えた程度のものを出してくるところまで幅が広いので発注者側としてはかなりリスキー、しかもキャパが小さい場合がほとんどなので、繁忙期には断られる、または質が落ちるなど、もろもろリスキーといえばリスキーです。

いずれにせよ、翻訳業者探しにはほとんど道しるべがありませんから、翻訳の発注をお考えであれば、こうした点も少し念頭において業者を選定されることをお勧めいたします。(2011/10)